「八木一夫と清水九兵衛」/菊池寛実記念 智美術館 〜旅の顛末

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2017年09月24日 13:01

(続き)
今回の上京もとうとう最後の行程となった。
泉屋博古館から菊池寛実記念 智美術館に向かう。
雨は相変わらずだが、この2館の距離は徒歩で僅か5分である。
買ったビニール傘を差し、スウェーデン大使館とスペイン大使館の間の坂を下りてホテルオークラの前を通り、現在工事中の大倉集古館の角を右に行けば、もう智美術館だ。
ここは今年5月に初めて訪れた。
篠田桃紅展を観るのが目的だった。
今回は「八木一夫と清水九兵衛〜陶芸と彫刻のあいだで」展が始まったばかりである。
・会期 9/16〜12/3
確かに、現代陶芸と彫刻の間の線引きは難しくなっている。
そんな思いの籠ったタイトルだろうと想像する。
泉屋博古館からの延長で見ると、今展の2人も京都工芸の流れを汲んでいる。清水六兵衛(4,5代)の名前は泉屋博古館展にもあった。
2人は、第2次大戦後の復興期に、製陶を生業とする京都東山にあって新しい陶芸を模索し、それぞれの立場から新風を送り込んだ。
とは言っても、それを意識して今展を選択したのではない、全くの偶然なのだが。
まず八木一夫(1918-2006)について。
八木は、大正から昭和にかけた時代の陶芸家八木一艸(1894-1973)の長男。
陶芸家仲間と1948年に「走泥社」を結成し、機能や用途を有しない彫刻的作品を「オブジェ焼き」と称して制作、従来にない陶芸の可能性を追求した。茶の湯等の伝統的美意識や文化を背景に持ちながらも、西洋近代美術の考えを取り入れ、自分の思想や心象の表現を目指した。
「オブジェ焼き」として1954年に発表した《ザムザ氏の散歩》は、驚きをもって迎えられた。事件と言ってもいい。
「ザムザ」とは、カフカの小説『変身』(初出1915)の主人公の名で、ある朝目覚めてみると巨大な毒虫になっていた男である。
他に《歩行》(1957)、《踊り》(1962)、《頁1》(1971)等の作品が展示されている。(〜全55点)
大胆で骨太な作品が多い。
文学的素養もあって著述書も存在、詩的なタイトルも魅力的だ。
例えば《湖底の聚落》(1952)、《遠い入口》と《近い入口》(共に1969)、《ひかりが頬をすべり》(1977)等。
次に清水九兵衛(1922-2006)。
清水の旧姓は塚本で、名古屋に生まれ、名古屋高等工業学校でモダニズム建築に興味を持ち、戦後、東京藝大美術部鋳金科で彫刻を学んだ。
在学中、1951年に、ガラス,家具デザイン,染織,漆工仲間と「新工芸協会」を結成。モダンリビングに合うインテリアや器を提案する展覧会を東京で開いた。
そして、これも在学中の事だが、京都清水焼の名跡清水六兵衛(6代)の養子となって陶芸を始めた。
泉屋博古館に展示があった5代目は、結果、祖父となった訳である。
卒業後、陶芸家として受賞、評価も受け、日展審査員にもなるが、その間もヨーロッパの現代彫刻に興味を持ち続けて、1967年には日展を辞し、抽象彫刻の制作を始めた。
その後、1981年になって7代目清水六兵衛を襲名し陶芸活動を再開、彫刻も続けるという、紆余曲折の多い生涯を送った。
展示作品は、《花器(オブジェ、目、方容)》(1955)、《花器》(1955)、《層容》(1957)、《花陶容》(1987)等、全43点。
陶以外に、ブロンズ,アルミニウム,木,和紙、そして複合的な作品もある。
中で、一度作り上げた幾何学的で整然としたものを敢えてカットし、不自然で壊れ易いイメージを再構成するという狙いを示した作品に、奇妙な魅力を感じた。
ここに持ってくる訳にはいかないが、公的空間に設置した大型モニュメントも数多いと聞く。
今展のHP。
http://www.musee-tomo.or.jp/exhibition.html
作品画像は、最上部が八木の《ザムザ氏の散歩》、そのすぐ下が清水の《花器》(1955)、中程左が八木の《踊り》(1962)、右が清水の《花陶容》(1987)。
時間と体力が許せば、同じ六本木のサントリー美術館に寄り、これも始まったばかりの狩野元信展を観る事も検討していたが、酷くなった雨の中30分近くも歩くのは無理だと判断した。
神谷町駅駅迄5分程坂道を下り、地下鉄を乗り継いで東京駅に戻った。
改札の外に新しくできた「グランスタ丸の内」の中を物色、格別何の情報も持たないが、「ガーデンハウスカフェ」とやらに入る事にした。
パンが売りの店らしいが、頼んだのはオーガニック風の盛り合わせプレートと赤ワイン。
周囲を見回すと、上品な女性客が多い。隣の2人は、パソコンを開いて打ち合わせをしているキャリアウーマン風。年齢には幅がありそうだが、週末を遊び呆けたようなチャラチャラしたギャルはいない。
週末の、しかも台風が接近する中を遊び呆けているのは一体誰か、と後ろゆびを指されそうだが。
赤ワインをひと口含み、そうそう、台風は何処迄来ているのか、新幹線は走っているのか、走っているとしたら遅れてはいないか、最後の大問題である。
新幹線が動かないならば、もう1泊しなければならない。
ネットで調べると、今のところ新幹線は順調に走っているようだ。
ひと安心である。
この話の続きは、今回の上京レポートその1「台風下の東京小旅行から戻って」の冒頭に繋がる、まるで循環小説のように。
さてまだワインの残りがある、もう少し呑もう。
酔客の無駄話はここらにして、長い旅行記を閉じる事とする。
いつも以上に仮説の多いひねくれた文章をお読み頂きまして、ありがとうございました。
皆さんにお礼申し上げます。
(お終い)